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名古屋高等裁判所 昭和35年(ラ)173号 決定

再抗告人 伊藤一則

主文

本件再抗告は之を棄却する。

再抗告費用は再抗告人の負担とする。

理由

一、再抗告人の再抗告理由は別紙の通りである。

二、当裁判所の判断は左の通りである。

(1)  再抗告人は原審は訴訟が裁判上の和解により完結した後に訴訟上の救助の取消をなした違法があると主張する。然しながら、訴訟上の救助は裁判所が「訴訟上ノ救助ヲ受ケタル者カ訴訟費用ノ支払ヲ為ス資力ヲ有スルコト判明シ又ハ之ヲ有スルニ至リタルトキハ」「何時ニテモ」之を取消し得ることは民事訴訟法第百二十二条の明定するところである。固より訴訟上の救助取消の効果は将来に向つてのみ効力を生ずるものであつて過去に遡つて効力を生ずるものでないこと再抗告人主張の通りであるが、さればといつてこの事から当然に訴訟が裁判上の和解によつて完結した後は訴訟上の救助を取消すことが出来ないものとなすことが出来ない。けだし、訴訟上の救助は単に訴訟費用の支払の猶予、執行吏及裁判所が附添を命じた弁護士の報酬及立替金の支払の猶予、訴訟費用の担保の免除の効力を有するに止まり訴訟費用等の支払の免除の効力を有するものではないから訴訟完結後と雖もその支払猶予を取消してその支払を命ずる必要があるからである。のみならず訴訟上の救助は訴訟及強制執行にも効力を有すること明であるから訴訟完結後訴訟上の救助をそのままとなしておくときは救助を受けたる者は強制執行についても救助を受け得ることとなるからである。従つて、再抗告人の右主張はその理由がない。

(2)  再抗告人は原決定挙示の和解契約金の一部の弁済を受けたことによつて再抗告人は訴訟費用の支払をなす資力を有するに至つたとなすことが出来ないと主張する。然しながら、原決定はその挙示の資料に基き再抗告人が右資力を有するに至つたと認めたものであつて右資料によれば右の如く認め得られないではない。結局、再抗告人の右主張は原審の事実認定を攻撃するに帰着し適法な再抗告理由となすことが出来ないものというべきである。従つて、再抗告人の右主張もその理由がない。

以上の理由により本件再抗告を棄却することとし、民事訴訟法第四百十四条、第四百一条、第八十九条、第九十五条を適用し主文の如く決定する。

(裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 裁判官 奥村義雄)

再抗告理由

名古屋簡易裁判所昭和三五年(ハ)第一二五号貸金請求事件ニツキ昭和三五年六日二二日同裁判所ガナシタ訴訟上ノ救助ノ取消並ニ訴訟費用の追払ノ決定ニ対シ即時抗告ヲナシタ処名古屋地方裁判所民事一部(昭和三五年(ソ)第一〇号)ハ「原決定中訴訟救助取消決定ニ対スル即時抗告ヲ棄却スル原決定中ユウヨシタ訴訟費用ノ支払ヲ命ズル裁判ヲ次ノ如ク変更スル抗告人ニ対シユウヨシタ訴訟費用ヲ別紙計算書ノ通リ支払ウコトヲ命ズル」旨決定シ通達サレタコノ決定ニ対シテ次ノ如キ理由デアルノデ特別抗告ニ及ブモノデアル。

一、一旦訴訟ガ完結シタ後ニ於テハ訴訟上ノ救助ノ付与ハ勿論訴訟上ノ救助ノ取消ト云ウ事ハアリ得ナイ救助ノ取消ハ、ソレ迄ニ与ヘラレテイタ救助ヲ将来ニ向ツテ取リ止メジ後救助ヲ付与スル事ヲ拒ムニスギナイモノデアツテ既往ニ遡ツテ既ニ発生シテイル救助ノ効果迄モ無効ニスルモノトハ解セラレナイカラ訴訟ノ完結シタ後ニ於テハ既ニ取消ノ目的ガ存在シナイモノ、云ハナケレバナラナイ。

二、抗告人ガ本案訴訟上ノ救助ヲ付与セラレタ本案事件ハ和解成立シテ、完結シテイル事ハ一件記録ニヨツテ明ラカデアル右事件ニツイテ、完結前ニ付与セラレテイタ訴訟上ノ救助取消ト云ウ事ハアリ得ナイ事ト云ハナケレバララナイ。

三、抗告人が支払ノユウヨヲウケテイタ訴訟費用ノ取立ハ元来ソノユウヨガ、無資力デアル事ヲ理由ドシテ付与セラレタモノデアルカラ民事訴訟法第一二二条ニ基キ、ソノ無資力ノ原因ガナクナツタ後ニ於テ、ユウヨシタ訴訟費用ノ支払ヲ命ズル事ニヨツテナサルベキモノト解スル。

四、然ルニ原決定ハ被告人ニ対シ前記本案事件ノ完結前与ヘラレテイタ本件訴訟上ノ救助ヲ完結後ニ至ツテ取消シ且ユウヨシタ訴訟費用ノ支払ヲ命ジタモノデアツテ本件和解契約ニ基キ分割弁済トシテ五、六、七月債務弁済ヲ行ツタカラト説示シテイルガ現実ニ和解契約ニ基キ、全額債務弁済ヲ行ヒ、完全ニ債務履行ヲシタトシタナラバ、或ハ訴訟費用ノ支払ヲナス資力ヲ有スル事判明シ、又ハ有スルニ至ツタモノト認メラレルカモ知レナイガ、再三再四厳重ナ請求ニヨツテ、カロウジテ契約ノ期日後債務弁済ヲ行ツテイルガ如キ実状デアツテ既ニ八月末期日支払ノ履行ヲ行ハズ、再々ノ請求ニ拘ラズ、返信スラナキ実状デアルノデ、今後果シテ全額債務弁済ヲ行ウヤ否ヤ不納デアル。

ヨツテ抗告人ガ、訴訟費用ノ支払ヲ有スル事ガ判明シタト云ウ理論ニ到達シナイ事明ラカデアルカラ原決定ノ棄却ヲ求メルタメ本申立ニ及ンダモノデアル。

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